プロジェクト1

プロジェクト名:哺乳動物の生殖機能の解明と実用化技術開発

大学院統合生命科学研究科 生殖生物学研究室

研究紹介イラスト図

プロジェクトメンバー

教授島田昌之
助教梅原 崇
特任助教辻田菜摘
特任助教岡本麻子
博士研究員 JSPS特別研究員Moustafa Elhamouly
博士研究員 客員(家畜改良事業団)古家後雅典
研究員岡部綾美
研究員日笠佳子

1.研究室の概要

生殖生物学研究室は,生殖に関わる基礎研究から,応用研究,技術開発(実証研究)までを一貫して行っているのが特徴です。大学院で生物資源科学プログラムと食品生命科学プログラム,生物生産学部では分子農学生命科学プログラムと応用動植物科学プログラムにかかわっているので,哺乳動物,とくにマウスを用いて生殖機構を解明する基礎研究から,ヒトの不妊治療をはじめとする男性および女性の不妊症,生殖機能障害に関してモデル動物を用いた研究,さらには,家畜の繁殖生理に関する研究や畜産技術開発にも取り組んでいます。上記の研究について,畜産関連企業,製薬企業等との共同研究を多数実施しています。また,研究室発の大学発ベンチャーを3社設立しており,自分たちで開発した技術を社会実装することにも力を入れています。

2.主な研究内容と成果

① 卵胞発育・排卵機構の基礎研究からヒト不妊治療・家畜生産への応用

 遺伝子改変マウスを用いた卵胞発育,排卵過程の分子内分泌学的解析を行っています.排卵期に発現する成長因子の機能解析では,当該分野のフロントランナーとして数多くの発見をしてきました(Shimada et al., Mol Endocrinol., 2006ab, Shimada et al., Development, 2008, Fan et al., Science, 2009など).最近は,顆粒膜細胞における細胞分裂と大規模DNA脱メチル化機構の解析で,分裂期にDNAメチル化維持酵素の発現が抑制され,細胞機能が大きく変化することを明らかとしました(Kawai et al., Communications Biology, 2021)。このような基礎研究から,卵胞発育期の顆粒膜細胞におけるエネルギー合成経路を解明し,そこから発生する活性酸素主の影響を明らかとすることで,抗酸化因子PQQが発達する卵胞数を増加させることを突き止めました(Hoque et al., Free Radical Biology and Medicine, 2021)。この成果から,抗酸化因子のヒト不妊治療への応用とブタの産仔数増加に関する実証研究も行っています。

➁ 加齢と肥満による卵巣・精巣機能低下に関する研究

作成した遺伝子改変マウスが,加齢に伴って卵巣間質に脂肪細胞が蓄積して炎症と線維化が引き起こされ,不妊を呈したことを出発点として,加齢による卵巣と精巣の機能変化の解析を行っています(Umehara et al., Aging Cell, 2017).さらに,脂肪細胞の蓄積に着眼して,肥満モデルマウスの代謝変化を解析し,肥満が卵巣・精巣原発(卵巣・精巣機能低下から肥満が起こる)というモデルを提唱し,研究を行っています(Umehara et al., Science Advances, 2022).この研究は,精巣機能低下による動脈硬化に関する研究へと発展し,製薬企業と肥満や加齢による生殖機能低下の改善,予防薬の開発に関する共同研究を行っています.

③ 雌雄産み分け技術の開発

 私たちは,X染色体をもつ精子とY染色体をもつ精子に機能差はないのか?という疑問を解決するためにマウス精子を用いたRNAseqを行いました。その結果,X染色体由来のmRNAに着眼し,X染色体をもつX精子にのみ存在するタンパク質を同定しました。この中にTLR7とTLR8があり,両者を刺激する薬剤により,X精子で嫌気的解糖系が特異的に抑制され,X精子の運動が低下するという,X精子とY精子の機能差を科学的に世界で初めて明らかとしました(Umehara et al., PLOS Biology, 2019)。この画期的成果は,世界50か国以上のメディアで取り上げられました。さらに,この機能差を利用して,X精子とY精子を簡単に分取する方法を開発し,それを体外受精に用いることで,90%以上の成功率でマウスとウシで雌雄産み分けに成功しました(Umehara et al., Nature Protocols, 2020)。これらの一連の成果は,世界各国の畜産関連企業に注目され,国内外の多数の企業と共同研究を実施しています。特に,米国のビル&メリンダ・ゲイツ財団からは多額の寄付を得て,インドで貧困層にも乳製品を届けることができるプロジェクトにも参画しています

3.研究室発の大学発ベンチャー

「基礎研究成果を社会実装する=社会問題を我々の基礎研究で解決する」ことを目指すことの実践として,3社の大学発ベンチャー(株式会社広島クライオプリザベーションサービス,株式会社ダンテ,ルラビオ株式会社)を立ち上げています。

株式会社広島クライオプリザベーションサービス

ブタ精子の運動機構および子宮内において免疫拒絶されない仕組みを解明した研究成果を活用し,人工授精に使われる精子希釈液と凍結精液作成キットの販売を行っている。特に,ブタの人工授精技術では,国産豚肉の約半数の生産に利用されている人工授精用の精液希釈液を製造・販売している。ひろしまベンチャー大賞,E&Yアントレプレナーアワード中国地域代表,中国地域ニュービジネス大賞 など受賞。

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